患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解
著 | : 杉本健 |
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ISBN | : 978-4-524-20338-3 |
発行年月 | : 2023年6月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 224 |
在庫
定価4,950円(本体4,500円 + 税)
正誤表
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2023年09月20日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
多様な選択肢がある炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について,重症度だけでなく病態(サイトカインプロファイル)の類推と,患者背景の2点に着目するという著者独自の観点から患者ごとの“IBD治療薬の最適解”の考え方を提供.診断や重症度分類などの基本的知識から,薬剤選択の考え方,各薬剤の特徴,IBD治療がなぜ難しいのかを解説し,“皆が知りたいが誰にもわからない”IBD治療薬の使い分けに対する疑問に答える.消化器内科医はもちろんIBD診療に携わるプライマリ・ケア医にも必携の一冊.
1章 IBDとはどのような病気か?
1.IBDとは?
2.潰瘍性大腸炎とはどのような病気か?
3.クローン病とはどのような病気か?
4.発症要因と増悪因子
5.IBDと疾患感受性遺伝子
6.IBDは遺伝するのか?
7.IBDと腸内細菌
8.腸管における免疫応答異常が病気の本態
9.IL-23の発見
10.潰瘍性大腸炎とクローン病との違い
2章 IBD診療の基本知識を整理する
A 診断と重症度評価を理解するために
1.「潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・診断指針」と「IBD診療ガイドライン」
2.潰瘍性大腸炎の定義,診断,臨床的特徴と重症度分類
a.定義と診断
b.臨床的特徴と重症度分類
・Mayo score
・Lichtiger index
・Rachmilewitz index
c.内視鏡的重症度分類
3.クローン病の定義,診断,臨床的特徴と重症度分類
a.定義と診断
b.臨床的特徴と重症度分類
・重症度の評価
c.内視鏡的重症度分類
・CDEIS
・SES-CD
・Rutgeertsスコア
・Lewisスコア
・CECDAI
4.バイオマーカーによる重症度の推定
・炎症反応
・貧血
・栄養状態
a.新規バイオマーカー
・カルプロテクチン
・FIT
・LRG
・PGE-MUM
B 治 療
1.厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」の診断・治療指針
2.潰瘍性大腸炎の治療
a.軽症から中等症の治療
症例1 腹痛を主訴とし,内視鏡検査によりUCと診断され紹介された女性
b.重症の治療
c.劇症型の治療
d.難治例の治療
3.クローン病の治療
a.軽症から中等症の治療
b.中等症から重症の治療
c.難治例の治療
d.維持治療
3章 IBDの治療はなぜ難しいのか?:IBDの病態とサイトカイン
1.患者の病態・サイトカインパターンは複雑である
2.患者のサイトカインプロファイルの見極めが難しい
a.真の悪者は…
b.IL-17とIL-23
3.難治例に対する免疫抑制薬・分子標的治療薬の薬剤選択が難しい
4章 各薬剤の特徴:どのようなサイトカインを制御するのか?
1.5-アミノサリチル酸(5-ASA,メサラジン)
2.チオプリン製剤(アザチオプリン/6-MP)
3.ステロイド(プレドニゾロン,ブデソニド等)
a.ステロイド依存例・ステロイド抵抗例とサイトカインプロファイル
4.カルシニューリン阻害薬(タクロリムス,シクロスポリン)
5.抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ,アダリムマブ,ゴリムマブ)
6.抗IL-12/23 p40抗体製剤(ウステキヌマブ)
7.JAK阻害剤(トファシチニブ,フィルゴチニブ)
8.インテグリン阻害剤(ベドリズマブ,カロテグラストメチル)
9.血球成分除去療法
10.現在のIBD治療薬の弱点
5章 薬剤選択の考え方
1.IBDの病態メカニズムを理解する
2.Mode of Action(MOA)の観点から考えたIBD治療薬の選択
a.火を消す消火器=免疫抑制薬
b.モグラをやっつけるハンマー=抗サイトカイン抗体,JAK阻害剤
c.穴を埋める=インテグリン阻害剤
3.サイトカイン制御の観点から考えたIBD治療薬の選択
4.IBD新規治療薬への期待
a.ウパダシチニブ
b.リサンキズマブ
6章 サイトカインプロファイルを類推するには
1.病理像からサイトカインプロファイルを類推する
症例2 抗TNFα抗体製剤で制御できなかった好酸球浸潤が目立つUC症例
症例3 腸管粘膜への著明な好中球浸潤からTh17と類推できた症例
a.病理像を直接見られない場合
2.腸管外合併症からTh1サイトカインパターンを類推する
3.各薬剤への治療反応性からサイトカインパターンを類推する
4.罹病期間によってTh1/Th17サイトカインプロファイルは変化する?
7章 症例から学ぶ病態の見極め方と薬の選び方
1.Th1サイトカインの優位な患者の特徴と薬剤選択
症例4 腸管外合併症からサイトカインプロファイルが類推できた症例
2.Th17サイトカインの優位な患者の特徴と薬剤選択
症例5 PGE-MUM高値がTh17サイトカインプロファイル優位を表していたと考えられた症例
3.Th2サイトカインの優位な患者の特徴と薬剤選択
症例6 ベドリズマブを使用することにより長期のステロイド依存から離脱できた症例
4.粘膜の好酸球浸潤に注目して薬剤選択を行う
a.潰瘍性大腸炎の粘膜好酸球浸潤例には難治例が多い
b.免疫調節薬を効果的に使用する
症例7 チオプリンの使用によりTh2を制御できていたと考えられる症例
5.杉本流ステロイド抵抗例・依存例に対する治療戦略のまとめ
a.ステロイド抵抗例(Th1/Th17優位)
b.ステロイド依存例(Th2優位)
6.生物学的製剤のhead to headの前向き試験やネットワークメタアナリシスの結果についてどう考えるか?
8章 軽症例・寛解維持症例におけるIBDの薬剤選択:5-ASAを中心に
1.潰瘍性大腸炎
2.クローン病
症例8 5-ASAが著効した活動性中等症CDの症例
9章 患者側の事情,医療者側の都合から考える,薬の選び方
1.患者側の事情と医療者側の都合
2.重症度から薬剤を選択
a.潰瘍性大腸炎
b.クローン病
3.アドヒアランスから薬剤を選択
4.注射に対する患者側の条件から薬剤を選択 .
5.併存疾患の有無から薬剤を選択
6.妊娠の有無・挙児希望の有無から薬剤を選択
7.免疫調節薬の併用可否から薬剤を選択
8.年齢・免疫状態から薬剤を選択
9.体重から薬剤を選択
10.医療者側の都合から薬剤を選択
おわりに
付録:薬剤一覧
はじめに
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は慢性あるいは寛解・再燃を繰り返す腸管の炎症性疾患を総称し,一般的には潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohnʼs disease:CD)という2つの病気を指します.これらの病気はともに原因不明であり,そのために現在でもこれらの病気を根治させる治療法は見つかっていません.ただし,最近の研究でIBDはなんらかの遺伝的な異常や食生活,喫煙,あるいは社会的なストレスなどの環境的なものが要因となって引き起こされているということが徐々にわかってきました.IBDの遺伝的な素因や環境的な素因が,腸のなかに無数に存在している腸内細菌のバランスを崩し,それらが最終的に体の中の免疫システムになんらかの異常を引き起こして病気が発症すると考えられています.免疫とはもともと我々の体のなかに備わっている,細菌やウイルスなどの外敵から自分の体を守るための防御システムですが,UCやCDの患者さんにおいてはこれらの免疫システムに異常が生じているために病気が発症したり,病気の状態が悪化したりするのです.
したがって,直接の病因がわかっていない現状においてIBDの最も効果的な治療薬は,これらの免疫の異常を抑えてあげるような薬となるのですが,実は免疫異常と一言でいっても,そこにはいろいろな種類のものが存在しています.基本的にはステロイドという免疫を広く抑えるような薬がIBDの初期治療として投与されますが,時間がたつにつれてだんだんステロイドが効かなくなるような状態,すなわちステロイド抵抗性というような状態に陥ります.一昔前まではいったんこうなってしまったら手術をするしか方法はなかったのですが,最近は免疫異常の原因となっているサイトカインという物質などをターゲットにしたさまざまな新薬が登場してきました.たとえば,抗TNFα抗体製剤,抗IL-12/23 p40抗体製剤,抗インテグリン抗体製剤,JAK阻害剤など多くの薬剤がIBD患者さんに対して使用できるようになりました.今後はさらに新しい分子を標的とした新薬も登場してくる予定です.
これらIBDに対する薬剤のラインナップが増えてきたことに関しては非常に喜ばしいことではありますが,1つ大きな問題があります.それは,これらの多くの薬剤の中からどの薬剤を選択するのがBestなのかということに関しては明確な答え,つまり「正解」がないということです.つまり,どの薬剤がどのような患者さんにもっとも効果が高いのかを知るための確立された方法がないのです.しかしながら,確かに「正解」はないのかもしれませんが「最適解」に近づく方法はあると私自身は考えています.
本書では患者さんの背景や病態を分析して,その患者さんに対して選択するべき治療薬の「最適解」を導き出すための考え方について解説していきます.
2023年4月
浜松医科大学内科学第一講座
杉本 健
サイトカインプロファイル理論に基づいた,素晴らしいIBD治療解説書の登場
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の病態や治療の解説書は,複雑な免疫の話題が多く記載されていて,どうも苦手という先生も多いのではないでしょうか.そんな先生方にぜひお勧めしたいのが本書です.IBDを専門とする杉本健教授(浜松医科大学内科学第一講座)が非常にわかりやすく,IBDの病態,治療薬の作用機序,サイトカインプロファイル理論に基づいた病態解析と薬剤選択について解説されています.杉本先生は粘膜免疫の基礎とIBD臨床の両方に精通した数少ないIBD専門家で,深い免疫学の知識と豊富な臨床経験があるからこそ,完成したテキストではないかと思います.
2002年にTNFα阻害薬infliximabが登場し,そのIBDに対する劇的治療効果に多くの専門家が驚きました.そして,infliximabの成功はその後のサイトカインを標的とした抗体製剤の開発,実用化を強く促すこととなりました.その結果,現在では数多くの分子標的治療薬が登場して,IBD治療薬の百花繚乱時代となっています.
IBDの基礎研究を振り返ってみますと,1980年代〜2000年代に,さまざまな免疫分子のノックアウトマウスを使った基礎研究が飛躍的に進み,現在の治療薬の分子標的となっているサイトカインやそれと関連した細胞内シグナルが数多く発見されました.杉本先生はその頃,米国BostonにありますMassachusetts総合病院で,溝口充志先生(現 久留米大学医学部免疫学講座主任教授)のもとで粘膜免疫とくにIL-22を中心としたサイトカイン研究に従事されて,数多くの成果を上げられました.このような豊富なサイトカイン研究のご経験を通して得られた基礎知識をもとに,潰瘍性大腸炎とCrohn病の病態をサイトカインプロファイルの違いから解析して,その結果に基づき,作用機序を考慮して治療薬を選択するという独自のお考えをわかりやすくご解説いただいています.サイトカイン研究を通した豊富な知識をおもちだからこそ可能な病態分析と治療方針決定のストラテジーは,非常に説得力の強いものです.現在のIBD治療は,あまりに多くの新薬が登場したために,IBD専門家でも治療薬の選択に迷ってしまうような状況です.こうした状況だからこそ,本書に書かれているようなサイトカインプロファイルに着目した治療ストラテジー決定の考え方が求められていると思います.
ぜひ,これから基礎研究やIBD診療に携わろうとしている若い先生のみならず,IBD患者の治療を専門とされている先生方も,ご一読いただけるとIBDへの理解がさらに深まると思います.
臨床雑誌内科132巻4号(2023年10月号)より転載
評者●安藤 朗(滋賀医科大学消化器内科 教授)