書籍

症例から学ぶ 間質性肺炎の臨床・画像・病理

編集 : 田口善夫/野間惠之/小橋陽一郎/岡輝明
ISBN : 978-4-524-20322-2
発行年月 : 2025年4月
判型 : B5判
ページ数 : 312

在庫あり

定価13,200円(本体12,000円 + 税)

  • 新刊

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

間質性肺炎は原因不明のものが多く,病態の把握や診断・治療に難渋することが多い.本書は,間質性肺炎の診療に長く携わってきた画像診断,病理診断,治療のエキスパートたちが,数多くの症例の中から代表的なものを厳選し,各病型の特徴を明確に解説.豊富なCT像・病理アトラスとともに,疾患の全経過を追いながら学べる内容になっている.間質性肺炎の診断・治療に関わるすべての医療者必携の一冊.

T章 総 論
 1.臨床―歴史から間質性肺炎を紐解く
 2.画像―間質性肺炎の画像の読み方
 3.病理―間質性肺炎の病理形態学
U章 各 論
 症例1:感染を契機に急性増悪を繰り返した慢性間質性肺炎
  Column:蜂巣肺,蜂窩肺と牽引性細気管支拡張
 症例2:肺がんを合併したCPFEの一例
 症例3:多発浸潤影を呈した特発性器質化肺炎
 症例4:上葉優位な慢性経過を示す肺線維症
  Column:典型的なIPUF像
 症例5:剝離性間質性肺炎の一例
  Column:ガイドラインの扱い方1:臨床
  Column:ガイドラインの扱い方2:画像
  Column:ガイドラインの扱い方3:病理
 症例6:病歴から原因が推測された間質性肺炎
 症例7:急性増悪した慢性間質性肺炎
 症例8:初診1年前のCTが診断に重要な役割を果たした抗ARS抗体関連間質性肺炎の一例
  Column:画像上,症例8と鑑別を要する他疾患
 症例9:無治療で改善した間質性肺炎
 症例10:健診発見後に急速進行した間質性肺炎
 症例11:関節リウマチに先行した間質性肺炎
 症例12:手指冷感を伴う慢性間質性肺炎
 症例13:慢性間質性肺炎が先行した膠原病肺
 症例14:中年女性にみられた慢性間質性肺炎
 症例15:亜急性に進行する間質性肺炎
 症例16:経過中にANCA陽性となった慢性進行性間質性肺炎
  Column:TBLCの実際
  Column:TBLCでどこをとればよいか
 症例17:進行性肺線維症(PPF)の一例
  Column:PF-ILDとPPF

 思い起こせば,私をびまん性肺疾患への入り口への道しるべを示してくださったのは,今は亡き師匠の岩田猛邦先生である.
 その師匠がびまん性肺疾患へ,歩んでいくことになったのは1978 年に外科的肺生検を行った典型的なびまん性汎細気管支炎(DPB)の症例であった.致死的な疾患であるとされたDPB のつながりで,当時奈良県立医科大学の教授であった三上理一郎先生が,師匠に声がけをしてくださり大阪のびまん性肺疾患研究会,厚生労働省班会議への参加への道が開かれていった.さらには,京都大学教授の泉孝英先生が主催された様々なびまん性肺疾患の研究会へ参画することになった.
 そして,それらの会議に,鞄持ちとして同行していたことが,結局私がびまん性肺疾患への道を歩くことになった訳である.
 師匠の臨床は,とにかく症例から何が学べるかという観点で診療していたことを強く教えられた.また,当時は鬼のように剖検をするというのが,岩田流でありそれがよい臨床,よい医療という観点で厳しく指導していただいた.さらに病気には原因があることを,常に口癖のように言っておられ,特発性はないんだと1980 年代から叫んでおられたことは忘れられない.実際その後に多くの病態が特発性から分離され明らかになっていったのは知っての通りである.ガイドライン主流である現在であるからこそ,原点に立ち返ってこの本を執筆するに至った訳であり,この書を岩田猛邦先生に捧げるとともに,若い先生方に思いが伝わることを切に願っている.
 また,最後に本書の出版にあたって,粘り強くかつ大変な尽力をいただいた南江堂の方々に深謝いたします.

2025 年3 月
田口 善夫


 びまん性肺疾患にはまれな疾患も多いが,画像に特徴のあるものも多く,画像技術の進歩によって理解が進んだものも多い.びまん性肺疾患の一角を占める間質性肺炎においても例外ではなく,ATS/ERS の2002 年のガイドラインでは,IPF/UIP の診断は,画像が典型的であれば,画像で最終診断してもよいとされている.しかしながら,診断の重要な根拠となる蜂巣肺においてすら,画像上の定義にはコンセンサスが得られていない.そもそも分類のスタートとなったLiebow の分類を振り返ると“特発性”とされていたもののなかに膠原病が多く含まれており,そのことが,間質性肺炎の分類の混乱の原因とわれわれは考えている.“特発性”つまり,“原因の不明の病態”がそんなに多く存在するのかという大命題に,われわれは「No」という立ち位置で長年間質性肺炎に対峙してきた.“原因のない疾患はない”というのがわれわれの一貫したスタンスであり,この30 年間に得られた症例群のなかから病理の根拠のある症例で,十分な臨床経過と画像経過の追えたものから選んだ症例を示すことで,間質性肺炎を見る機会の少ない先生方に,読影ポイントや臨床の進め方のヒントがあればうれしく思う.
 本書を書く依頼を受けてからすでに長い時間が経ってしまったが,この間に我慢強くわれわれを支え,サポートしてくださった南江堂の皆様に心から感謝したい.

2025 年3 月
野間 惠之


 天理よろづ相談所病院においては,医事課をはじめとする事務方,放射線科技師,病理組織の臨床検査技師,研究所の職員など,様々な職種の方々の力添えで,50 年以上の永きにわたって実物のカルテ,放射線フィルム,病理組織および病理標本などが保存され,時に応じてそれらが現場に供給されてきました.今回,こうした実物のデータが特に重要とされている非腫瘍性の肺疾患を取り上げ,症例集を組んでみました.文字で記す画像所見,画像診断,あるいは組織所見,組織診断などには,時代による変遷,各個人による違いが認められます.今回,全体からすると一部ですが,時代による変化の少ない,各症例の実臨床データ,放射線画像,病理組織像などを掲載できて幸いです.
 なお,ここに示した病理組織像の元となる病理標本の作製(肺の膨らまし固定・切出し・各染色の選択),各症例の組織学的検討,症例のまとめなどは,当院病理診断部に永年在職された弓場吉哲先生(北野病院病理診断部現部長)の尽力によるところが大きく,また大型切片などの困難な組織標本の薄切,実際の染色などは,各時代の病理検査技師の方々がいろいろ挑戦してくださってできたもので,あらためて感謝したいと思います.

2025 年3 月
小橋 陽一郎


 天理よろづ相談所病院の小橋さんにはじめてお目にかかったのはいつだったか.たぶん40 年ほど前だと思います.双眼だったか,二人で覗ける顕微鏡で組織標本を見たのだと思います.そのときに感じたことで今なお忘れられないことは,目の前の組織の世界をほぼ‘おんなじ’感じ方,考え方で見てるヒトがいる!というコトでした.衝撃的でした.ああ,同じだと感じ,妙に安心した記憶があります.そして,ぼくの見方も間違っていないのかもと思いました.このときから小橋さんはぼくにとって最も信頼でき,頼りになる兄貴分の病理学徒であり,今でも変わりません.意見が違うことはありますが,たしなめられるのは専らぼくです.
 ぼく達がこの本を作ろうと思い立ちましたのは,ある研究会のあとで,そこでの議論を聞いて,ぼく達が思っていることとは違っているなあと感じたからです.この本ではぼく達の見ていることを素直に書いてみました.規約や論文などにとらわれることなく見たことに忠実であろうとしました.ぼく達は,目の前の画像や臓器の中にあるはずの真実を見ることにすべての関心があります.冲中重雄先生が最終講義の結びに,「明日の医学は書籍や論文の中にではなく,目の前の患者のなかにこそ明日の医学(真実)がある」というようなことをおっしゃったのは1963 年のことです.そのころ画像はX 線写真,検査は化学反応程度と血沈,という状況でも緻密な患者観察と深い思考の結果があの誤診率14.2%なんです.この本のなかにどれほどの真実を抽出できたか.それを思うと忸怩たる思いではありますが,暫時ぼく達の観察に耳を傾けてみてください.

2025 年3 月
岡 輝明

9784524203222