書籍

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022

監修 : 日本神経学会
編集 : 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン作成委員会
ISBN : 978-4-524-20178-5
発行年月 : 2022年5月
判型 : B5
ページ数 : 212

在庫あり

定価4,730円(本体4,300円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本神経学会監修による,エビデンスに基づいたオフィシャルな診療ガイドライン.今版では初版「重症筋無力症診療ガイドライン2014」を基に,分子標的治療薬の情報等も追加して内容をアップデート.また,これまでガイドラインが存在しなかったランバート・イートン筋無力症候群も取り上げ,両疾患について疾患概念や診断基準,疫学,予後等の基礎的な内容から,治療指針や具体的な治療法等の実診療に関する情報までを網羅している.

第1 章 重症筋無力症(MG)総論
 1.MGの病因
  CQ 1-1 MGの病因は何か
  CQ 1-2 胸腺腫の病態
  CQ 1-3 過形成胸腺の病態
  CQ 1-4 リンパ球やサイトカインの病態
 2.MGの症状・合併症
  CQ 2-1 MGはどのような症状を呈するか
  CQ 2-2 筋無力症状以外に注意すべき症状や合併疾患は
 3.診断・評価・病型分類
  CQ 3-1 MGの診断はどのように行うか
  CQ 3-2 MG症状と患者QOLの評価法は
  CQ 3-3 成人MGはどのようなサブタイプに分類されるか
 4.疫学・予後
  CQ 4-1 わが国にはどのくらいのMG 患者がいるか
  CQ 4-2 MG患者が置かれた現状は(症状,QOLレベル,社会的不利益)
  CQ 4-3 MGの長期予後や死因は
 
第2章 成人期発症MG の治療
■成人期発症MGの治療ガイド(CQマップ,治療アルゴリズム)
 5.成人期発症全身型MG の治療指針
 5-1 治療の基本的考え方
  CQ 5-1-1 治療上の基本的な考え方は
  CQ 5-1-2 早期速効性治療戦略とは何か
 5-2 胸腺摘除術
  CQ 5-2-1 非胸腺腫MGに対する胸腺摘除はどのような患者で行われるか
  CQ 5-2-2 胸腺摘除の周術期における注意点は
 5-3 経口免疫療法
  CQ 5-3-1 経口ステロイドをどのように使用するか
  CQ 5-3-2 非ステロイド免疫抑制薬をどのように使用するか
 5-4 メチルプレドニゾロン静脈内投与
  CQ 5-4 メチルプレドニゾロン静脈内投与(ステロイドパルス)をどのように行うか
 5-5 免疫グロブリン静注療法
  CQ 5-5 免疫グロブリン静注療法をどのように行うか
 5-6 血漿浄化療法
  CQ 5-6 血漿浄化療法をどのように行うか
 5-7 分子標的治療薬
  CQ 5-7-1 補体標的薬(エクリズマブなど)をどのように用いるか
  CQ 5-7-2 CD20標的薬(リツキシマブなど)をどのように用いるか
 5-8 抗コリンエステラーゼ薬
  CQ 5-8 抗コリンエステラーゼ薬をどのように用いるか
 5-9 その他の免疫抑制薬
  CQ 5-9 その他の免疫抑制薬(アザチオプリン,シクロホスファミド,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキセートなど)をどのように用いるか
 6.成人期発症眼筋型MGの治療指針
  CQ 6-1 眼筋型MG治療の基本的な考え方は
  CQ 6-2 眼筋型MGに対する免疫療法をどのように行うか
  CQ 6-3 眼筋型MGに対する対症療法をどのように行うか
 7.病態ごとの治療とマネジメント
  CQ 7-1 後期発症MG(g-LOMG)の治療をどのように行うか
  CQ 7-2 MuSK抗体陽性MG(MuSK-MG)の治療をどのように行うか
  CQ 7-3 seronegative MGの治療をどのように行うか
  CQ 7-4 現状でのLRP4抗体陽性所見をどう考えるか
  CQ 7-5 クリーゼの回避と対処はどのように行うか(非侵襲的換気療法を含む)
  CQ 7-6 免疫チェックポイント阻害薬によるMGをどのように取り扱うか
  CQ 7-7 MGの増悪因子として知っておくべきものは(禁忌薬剤を含む)
  CQ 7-8 妊娠・出産における注意点は何か
  CQ 7-9 どのように生活指導を行うか
 
第3章 小児期発症MGの治療
 8.小児期発症MGの基本情報と治療指針
  CQ 8-1 小児期発症MGの特徴は何か
  CQ 8-2 小児期発症MGにおいて経口免疫療法をどのように行うか
  CQ 8-3 小児期発症MGにおいて血漿浄化療法,免疫グロブリン静注療法をどのように行うか
  CQ 8-4 小児期発症MGにおいて胸腺摘除術をどのように行うか
  CQ 8-5 小児期発症MGにおいて抗コリンエステラーゼ薬をどのように用いるか
 9.小児期発症MGの病態ごとの治療指針
  CQ 9-1 小児期発症眼筋型MGをどのように治療するか
  CQ 9-2 小児期発症潜在性全身型MGをどのように治療するか
  CQ 9-3 小児期発症全身型MGをどのように治療するか
  CQ 9-4 小児期発症MGの視機能維持をどうするか
  CQ 9-5 小児期から成人期へのtransitionはどうするか
 
第4章 ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)
 10.LEMS の基本情報
  CQ 10-1 LEMSの病因はなにか
  CQ 10-2 LEMSの診断はどのように行うか
  CQ 10-3 LEMSの症状は(LEMSを見逃さないために)
  CQ 10-4 PCD-LEMSとは何か
  CQ 10-5 LEMSの疫学は
  CQ 10-6 LEMSの予後は
 11.LEMS の治療指針
  CQ 11-1 LEMS治療の基本的な考え方は
  CQ 11-2 LEMSに3,4-ジアミノピリジン(3,4-DAP)をどのように用いるか
  CQ 11-3 LEMSに免疫治療をどのように行うか

神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって

 日本神経学会では,2001年に柳澤信夫理事長の提唱に基づき,理事会で主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することが決定され,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」 の6疾患についての「治療ガイドライン2002」 を発行しました.
 その後,日本神経学会では「治療ガイドライン2002」 の発行から時間が経過し,新しい知見も著しく増加したため,2008年の理事会で改訂を行うことを決定し,さらにそれ以降も関連学会と協力してガイドラインごとに作成委員会を設置して順次改訂や新規作成に取り組んできました.現在では18のガイドラインを出版本やホームページで公表しています.ガイドラインは,当初「治療ガイドライン」 として作成されていましたが,2010年に改訂版として公表した「てんかん」,「認知症疾患」,「多発性硬化症」,「パーキンソン病」 のガイドラインからは,検査・診断を含めた「診療ガイドライン」 として作成・公表されるようになりました.
 重症筋無力症に関するガイドラインとしては,新規治療戦略を中心としたエビデンスの集積を背景に,日本神経治療学会,日本神経免疫学会および日本小児神経学会の協力を得て,日本神経学会の監修のもと,「重症筋無力症診療ガイドライン2014」 が作成され公表されました.
 今回のガイドラインは,2014年版の改訂版で,新たにランバート・イートン筋無力症候群が対象疾患として加わりました.日本神経学会監修のもと,日本神経治療学会,日本神経免疫学会,日本小児神経学会の協力のもとガイドライン作成委員会を構成し,作業を進めて,「重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022」 として公表するに至ったものです.
 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン作成委員会の委員長,作成委員,研究協力者,システマティックレビュー委員,外部委員,評価委員には,毎年日本神経学会代表理事に利益相反自己申告書を提出し,日本神経学会利益相反委員会が審査し,重大な利益相反が生じないようマネジメントを行うとともに,その申告状況については本誌で公表することにしました.
 本ガイドラインの改訂・作成は従来同様,根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の考え方に従い,「Minds 診療ガイドライン作成の手引き」 2014年版に準拠して作成されました(これまでに2014年版準拠は多発性硬化症・視神経脊髄炎,パーキンソン病,てんかんの診療ガイドラインなどがあります).2014年版では患者やメディカルスタッフもクリニカルクエスチョン作成に参加するGRADEシステムの導入を推奨しており,GRADEシステムは新しいガイドラインの一部にも導入されています.
 診療ガイドラインは,臨床医が適切かつ妥当な診療を行うための臨床的判断を支援する目的で,現時点の医学的知見に基づいて作成されたものです.個々の患者さんの診療はすべての臨床データをもとに,主治医によって個別の決定がなされるべきものであり,診療ガイドラインは医師の裁量を拘束するものではありません,診療ガイドラインはすべての患者に適応される性質のものではなく,患者さんの状態を正確に把握したうえで,それぞれの治療の現場で参考にされるために作成されたものです神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって重症筋無力症,ランバート・イートン筋無力症候群の治療も日進月歩で発展しており,今後も定期的な改訂が必要となります.本ガイドラインを各関係学会員の皆様に活用していただき,さらには学会員の皆様からのフィードバックをいただくことにより,診療ガイドラインの内容はよりよいものになっていきます.本ガイドラインが,皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご評価をお待ちしております.

2022 年5月
日本神経学会 代表理事 戸田 達史
日本神経学会 前ガイドライン統括委員長 亀井  聡
日本神経学会 ガイドライン統括委員長 青木 正志

MGとLEMSの診療のエッセンスが簡潔にまとめられた必携の書

 重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)とランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myathenic syndrome:LEMS)は代表的な免疫介在性神経筋接合部疾患であり,診断,治療の正しい知識が求められる.このたび,国際医療福祉大学の村井弘之教授を委員長とする日本神経学会の委員会の編集により,この二つの疾患の2022年版の診療ガイドラインが発刊されたことは,誠に喜ばしい.
 今回は,「重症筋無力症診療ガイドライン2014」が8年ぶりに改訂されたものであり,「重症筋無力症(MG)総論」「成人期発症MGの治療」「小児期発症MGの治療」「ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)」の全4章から構成され,診療に重要な情報が計56のクリニカルクエスチョン(CQ)に回答する形で記載されている.
 そのなかから特筆すべき事項を列挙してみる.
1)本邦におけるMGの症例数は2017年には29,000例と推定され,約10年間で2倍に増加した.
2)MGの診断においては,従来はアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)抗体,筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscle-specific receptor tyrosine kinase:MuSK)抗体がともに陰性で,神経筋接合部障害を示唆する検査所見が得られない場合にはMGと診断できなかったが,今回の診断基準の改訂により血漿浄化療法による改善があれば,ほぼ確実例(probable)と診断できるようになった.
3)Japan MG Registry studyのデータのクラスター解析により眼筋型MGと五つの全身型MGの計6病型に分類された.全身型MGは,AChR抗体陽性で胸腺腫のない早期発症MG(発症年齢<50歳)と後期発症MG(発症年齢≧50歳),AChR抗体陽性の胸腺腫関連MG,MuSK抗体陽性MGと抗体陰性MGである.本ガイドラインでは,各病型の治療アルゴリズムが掲載されており,臨床上極めて有用である.
4)MGの早期治療について,以前によく行われていた漸増漸減による高用量経口ステロイド療法は,長期的な副作用やQOLの低下の観点から「推奨しない」と初めて明言されたことが重要である.それに代わって,血漿浄化療法,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン静注療法による早期速効性治療(early fast-acting treatment:EFT)の導入が推奨されたが,これによりMG治療の目標とされる「経口プレドニゾロン5 mg/日以下でminimal manifestationsレベル(MM-5 mg)」を達成する患者の割合が増加した.
5)難治性MGが初めて定義された.これは,「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合を指す.
6)2017年にMGで初となる分子標的治療薬として補体(C5)阻害薬のeculizmabが承認された.
7)LEMSが初めて診療ガイドラインで取り上げられ,診断基準や治療アルゴリズムが掲載された.
 本書の各項目は簡潔にまとめられており,理解しやすい.本ガイドラインを作成された委員会の先生方に敬意を表するとともに,MGとLEMSの診療に必携の書として本書を推薦したい.

臨床雑誌内科131巻4号(2023年4月号)より転載
評者●福島県立医科大学多発性硬化症治療学 教授 藤原一男

9784524201785