Rosai & Ackerman's Surgical Pathology, 11th ed.,
In 2 vols.
著者 | : J.R.Goldblum, J.K.McKenney, L.W.Lamps, et al.(eds.) |
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出版社 | : ELSEVIER |
ISBN | : 978-0-323-26339-9 |
ページ数 | : 2142pp. |
出版年 | : 2018年 |
在庫
定価96,250円(本体87,500円 + 税)
- 商品説明
- 書評
本書は1953年の初版刊行以来,60年以上にわたり外科病理学のバイブルとして版を重ねてきた.今改訂では免疫組織学,遺伝学,分子生物学,分子病理学,予後・予測マーカーなどの最新知見を十分に取り込み,新生物であるなしを問わず,すべての疾患について効率的かつ効果的な診断の指針を与えてくれる.また,器官ごとに章を分類しているため,より容易に疾病を診断できるようになった.Expert Consultが付随し,さまざまなデバイスから全文検索が可能な他,約9600枚ものフルカラーの画像をダウンロードできる.
Elsevier社よりついに待望の第11版が出版された。本書は1953年の初版出版以来、世界中の病理学者にとって病理診断のバイブルのような存在であり筆者も第8版から所有している。近年の免疫染色や分子生物学的解析法の進歩によって病理診断も複雑化し、その専門書は臓器別に分けられ内容もかなり深いものが出版されているのが現状である。本書は2冊に分冊されているとはいえ全臓器にわたって腫瘍性および非腫瘍性病変の両者を網羅してあり、診断病理学において病変を俯瞰的に眺めることができる。
全2142ページとボリューム感があるが、2600ページを超えていた第10版に比べるとスリム化している。これは各臓器病変の切り出し方法、病理診断レポートの書き方、診断の精度管理といった付録的な内容をなくしたのに加え、診断病理に関するエッセンスを絞り込んだことによる。初学者にとっては各臓器別のアウトラインを眺めるだけでも当該臓器の病理診断に関与するどのような疾患や病変があるのか、あるいは臓器特異的な疾患がどのようなものであるのかも把握できる。
個々の病変については臨床像、病理組織像、免疫染色所見、特異的な分子異常、予後まで記述してあり、豊富できれいなカラーのマクロ像とミクロ像の写真が組み合わせてあることによって病変の臨床病理像、さらにはその発生機序までもが体系的に学べるようになっている。一般的に診断病理の教科書には腫瘍性病変に重きを置いたものも多いが、本書では各臓器の病理診断が問題となる血管病変、炎症、感染症などについても網羅的かつ詳細に記載がなされている。さらには日常遭遇する病変はもちろん、稀であるが重要な病変まで漏らすことなく記載してある。各臓器の章の最後には疾患の病理診断の根拠となった代表的な文献が系統的に記載してあり、より深くその疾患の理解を深めるのに便利である。このように痒いところにまで手が届く、まさに“病理診断の百科事典”とも言うべき書である。
また、最近の教科書の特徴でもあるが、本書においても「Expert Consult」というWebコンテンツよりJPEG方式で掲載されている写真と説明文を高画質な状態でダウンロードすることができ、個人的に興味ある病変や不得意な病変についてファイルとして編集でき自学自習に役立てることも可能である。
ゲノム解析の進歩によって様々な疾患概念の再編成が起こっており、特に腫瘍性病変では分子病理学的検索なしでは病理診断を下せないようなものが出現してきている。脳腫瘍においては2016年のWHO分類から病理診断全般にゲノム解析結果が織り込まれるようになり、これに従って新たな疾患概念であるDiffuse midline glioma, H3 K27M-mutantや膠芽腫におけるIDH遺伝子変異についての詳しいアップデートな記載もなされている。筆者の専門領域である骨軟部腫瘍領域においても近年様々な腫瘍において次々と新たな融合遺伝子が同定されてきており、これに従ってCIC-DUX4やBCOR-CCNB3陽性肉腫といった 新たな腫瘍の記載もなされている。
本書は診断病理の初学者はもちろんベテランの診断病理医にとっても待望・必携の一冊であると同時に、大学医学部病理学教室、医学部図書館ならびに病理検査室が設置されている病院にとっても常備すべき書である。さらに様々な疾患の病理診断について基礎知識を勉強しようとする外科系、内科系医師ならびに放射線科医師にもお勧めできる教科書である。
評者●九州大学大学院医学研究院形態機能病理学分野
教授 小田義直